10年後の採択回数をシミュレーションしてみよう

統計・データ分析

モンテカルロシミュレーションで研究者の未来を見てみる

これまでの記事では、「採択率を確率として考えること」、そして「ベイズ統計を用いて現在の採択率を推定すること」を紹介してきました。

ベイズ統計で「現在の採択率」を推定してみよう
ベイズ統計で「現在の採択率」を推定する前回の記事では、「採択率=採択回数÷申請回数」という単純な計算だけでは、研究者の現在地を正しく表せないことを紹介しました。特に申請回数が少ない研究者ほど、一度の採択や不採択によって採択率は大きく変動しま…

今回は、いよいよその採択率を使って、研究者の未来をシミュレーションしてみます。

テーマはシンプルです。

「現在の採択率なら、今後10年間で何回採択される可能性があるのか。」

もちろん、未来を予言することはできません。

しかし、現在の採択率を前提とした場合に、「どのような未来がどのくらいの確率で起こり得るのか」を考えることはできます。

それがモンテカルロシミュレーションの考え方です。

今回のケーススタディ

今回は、私自身の科研費申請実績を例に考えてみます。

これまでの申請実績は次のとおりです。

  • 若手研究(B):3回申請、3回不採択
  • 基盤研究(C):2回申請、2回採択

ここでは制度変更による区分の違いは考慮せず、いずれも競争的資金として一括で扱います。また、全国平均採択率は約28%としました。

この結果、

  • 生涯申請回数:5回
  • 生涯採択回数:2回
  • 単純採択率:40.0%

となります。

しかし、前回の記事で紹介したように、申請回数が5回程度では偶然の影響も小さくありません。

そこで、全国平均採択率28%を事前情報とし、サンプルサイズを約10年分としてベイズ補正を行いました。

その結果、現在の推定採択率は**32.9%**となりました。

今回のシミュレーションでは、この32.9%を現在の採択率として利用します。

シミュレーション条件

条件は次のように設定しました。

  • 現在の採択率:32.9%
  • 今後10年間、毎年1回申請
  • 申請条件は毎年同じと仮定
  • モンテカルロシミュレーションによる確率推定

もちろん、実際には研究テーマの成熟、論文業績、共同研究、制度変更などにより採択率は変化します。

今回は、「現在の研究力が維持された場合」という単純化したモデルとして考えます。

平均は約3回採択

まず、期待値から見てみます。

採択率32.9%で10年間申請した場合、期待される採択回数は

約3.3回

となります。

ここで注意したいのは、この数字は平均であるということです。

実際の研究者人生では、「ちょうど3回採択される」とは限りません。

未来は一つではない

シミュレーションでは、同じ採択率でもさまざまな未来が現れます。

例えば、

  • 一度も採択されない未来
  • 1回だけ採択される未来
  • 3回採択される未来
  • 5回採択される未来
  • 7回以上採択される未来

など、多くのパターンが存在します。

私たちは現実では一度しか経験できませんが、コンピュータの中では何十万回、何百万回と未来を再現できます。

その結果から、「どのような未来が起こりやすいのか」を知ることができます。

最も起こりやすいのは3回採択

今回の条件では、最も起こりやすい結果は

10年間で3回採択

でした。

これは期待値ともほぼ一致しています。

しかし、だからといって全員が3回採択されるわけではありません。

研究者人生には、大きなばらつきがあります。

一度も採択されない未来も存在する

興味深いのはここからです。

採択率32.9%であっても、

10年間で一度も採択されない確率は約1.9%

ありました。

100人いれば、およそ2人は経験する計算です。

さらに、

10年間で採択1回以下となる確率は約10.9%

でした。

決して高い確率ではありません。

しかし、「十分起こり得る未来」であることも事実です。

もし、この結果だけを見て「自分には能力がない」と結論づけてしまえば、確率が持つばらつきを見落としてしまうことになります。

逆に、想像以上に採択される未来もある

一方で、良い方向へのばらつきもあります。

今回のシミュレーションでは、

10年間で5回以上採択される確率は約20.4%

でした。

さらに、

7回以上採択される確率も約1.8%

あります。

つまり、採択率32.9%という同じ条件でも、研究人生は一人ひとり大きく異なるのです。

私がこの結果で一番驚いたこと

今回、自分自身のデータを使ってシミュレーションしてみて、一番印象に残ったことがあります。

それは、

「平均」は一人の研究者を表していない

ということです。

期待値は約3.3回ですが、実際の研究人生では、その平均どおりになるとは限りません。

運が重なれば5回以上採択されることもあります。

逆に、不運が続けば1回以下に終わることもあります。

人生シミュレーターはこちら

過去の申請回数と採択回数から、今後10回申請したらどうなるか?をシミュレートします。
ベイズ確率を用いて基盤研究(C)の採択可能性をモンテカルロシミュレートします。参考程度にお使いください。

【付録】科研費人生シミュレータ
科研費人生シミュレーターを公開。申請回数と採択回数から、ベイズ統計による採択率を推定し、今後10回の申請機会における採択回数や採択確率をシミュレーションできます。お遊びツールです。

私たちは結果だけを見てしまいがちですが、その背景には「確率のばらつき」が存在していることを改めて実感しました。

だから、一度の結果だけで判断しない

科研費の結果は一年に一度しか届きません。

そのため、どうしても「今年採択された」「今年落ちた」という一回の結果に目が向いてしまいます。

しかし、モンテカルロシミュレーションは、もっと長い時間軸で研究人生を見る視点を与えてくれます。

今年の不採択は、十分に起こり得る範囲なのか。

あるいは、研究計画や申請戦略を見直すべきサインなのか。

その判断を冷静に考える材料になります。

おわりに

今回のシミュレーションは、あくまで「現在の採択率が今後も続く」という仮定の上に成り立っています。

実際には、研究者は成長します。

新しい共同研究が始まることもあります。

論文実績が積み重なれば、採択率が上がる可能性もあります。

つまり、未来は固定されていません。

今回のシミュレーションは、「現在地から見える未来」の一例にすぎないのです。

だからこそ、私はこの結果を悲観的にも楽観的にも捉えていません。

むしろ、「今の自分なら、このような未来が考えられる」という客観的な材料として受け止めています。

次回予告

ここで一つ、新しい疑問が生まれます。

もし、研究計画書を改善したことで採択率が**32.9%から37.9%**へ、わずか5ポイント向上したらどうなるでしょうか。

「たった5%」と思うかもしれません。

しかし、10年という時間軸で見ると、その差は決して小さくありません。

次回は、採択率が数ポイント改善すると、研究人生はどれほど変わるのかをシミュレーションし、研究計画を磨くことの意味を数字で考えてみたいと思います。

採択率が5ポイント上がると、何が変わるのか
研究計画書を改善して科研費の採択率が5%向上すると、10年後の研究人生はどう変わるのでしょうか。本記事では、ベイズ統計とモンテカルロシミュレーションをもとに、小さな改善が将来に与える影響を研究者向けに解説します。

ちなみに、採択期間は課題ごとに2~5年で様々なので、ここではそれらを考慮せずに説いていきます。

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