ベイズ統計で「現在の採択率」を推定する
前回の記事では、「採択率=採択回数÷申請回数」という単純な計算だけでは、研究者の現在地を正しく表せないことを紹介しました。

特に申請回数が少ない研究者ほど、一度の採択や不採択によって採択率は大きく変動します。
では、自分の採択率はどのように考えればよいのでしょうか。
そこで役立つのがベイズ統計です。
ベイズ統計という言葉を聞くと、「難しそう」「数式ばかり」という印象を持つ方もいるかもしれません。
しかし、その考え方は驚くほどシンプルです。
「自分の実績」と「全体の情報」を組み合わせて考える。
それがベイズ統計の基本的な考え方です。
今回は、科研費を例にしながら、「現在の採択率」を推定する方法を紹介します。
本当に採択率100%と言えるでしょうか
まず、次のような二人の研究者を考えてみます。
Aさん
- 申請回数:1回
- 採択回数:1回
採択率は100%です。
Bさん
- 申請回数:20回
- 採択回数:12回
採択率は60%です。
この二人を比べたとき、多くの人は「Aさんの方が優秀だ」とは考えないでしょう。
Aさんは、たまたま最初の申請が採択された可能性があります。
一方、Bさんは20回という長い研究活動の中で結果を積み重ねています。
つまり、同じ「採択率」という数字でも、その信頼性は大きく異なります。
逆の例も考えてみましょう。
Cさん
- 申請回数:2回
- 採択回数:0回
採択率は0%です。
しかし、この研究者が将来も採択されないと断言できるでしょうか。
もちろん、そのようなことはありません。
申請回数が少ないときの採択率は、偶然の影響を非常に大きく受けます。
ベイズ統計の考え方
ベイズ統計は、この「偶然の影響」を和らげるための方法です。
発想はとても自然です。
初めて会った研究者について、私たちはほとんど情報を持っていません。
そのようなときは、「一般的な研究者はこれくらいの採択率だろう」という情報を参考にします。
一方、その研究者が何度も申請を重ね、実績が蓄積されてくると、今度はその人自身のデータを重視するようになります。
つまり、
経験が少ないときは全体を見る。
経験が増えるほど個人を見る。
これがベイズ統計の考え方です。
科研費では何を基準にするのか
では、「一般的な研究者の採択率」は何を使えばよいのでしょうか。
ここでは、全国平均の採択率を利用します。
例えば全国平均を28%とします。
さらに、この平均値を「5件分の仮想的な実績」として考えることにします。
すると、
- 仮想採択数:1.4件
- 仮想不採択数:3.6件
を最初から持っていると考えます。
ここへ、自分自身の実績を追加していきます。
実際に計算してみる
例えば、
これまで
- 申請3回
- 採択1回
だったとします。
単純な採択率は
1÷3=33.3%
です。
ここへ全国平均28%(5件分)を加えると、
採択数は
1.4+1=2.4
申請数は
5+3=8
となります。
したがって、
現在の採択率は
2.4÷8=30%
となります。
単純な33%よりも少し全国平均へ近づきました。
これは、「まだ申請回数が少ないため、偶然の影響を少し抑えて考えましょう」という意味になります。
ベテラン研究者ではどうなるか
今度は、
20回申請して6回採択だった研究者を考えてみます。
単純な採択率は30%です。
ベイズ統計で計算すると、
採択数
6+1.4=7.4
申請数
20+5=25
となります。
採択率は約29.6%です。
ほとんど変わりません。
つまり、実績が十分に蓄積されている研究者では、全国平均の影響はほとんどなくなります。
ベイズ統計は、個人の実績を否定する方法ではありません。
実績が少ないときだけ、全体の情報を少し借りる方法なのです。
採択率は「更新される」
ここまで読んでいただくと分かるように、採択率は固定された数字ではありません。
今年申請すれば更新されます。
採択されれば上がるかもしれません。
不採択なら少し下がるかもしれません。
つまり、採択率とは、その時点における「現在地」を表す数字です。
研究者として成長すれば、この数字も少しずつ変わっていきます。
だからこそ、一度計算して終わりではなく、毎年更新していくことに意味があります。
重要なのは「何%か」ではない
ここで、一つだけ強調しておきたいことがあります。
この記事の目的は、自分の採択率を他人と比較することではありません。
研究分野も違えば、研究環境も違います。
大型種目に挑戦している人もいれば、若手研究に応募している人もいます。
単純に数字だけを比較することには意味がありません。
重要なのは、
昨年の自分より、今年の自分はどう変わったのか。
という視点です。
ベイズ統計で求めた採択率は、他人と競うための数字ではなく、自分自身の研究活動を振り返るための物差しなのです。
次回予告
今回は、ベイズ統計を使って「現在の採択率」を推定する方法を紹介しました。
では、その採択率が30%だった場合、これから10年間で何回採択されるのでしょうか。
あるいは、採択率が35%に改善したら、研究人生はどのように変わるのでしょうか。
次回は、この推定した採択率を使って、モンテカルロシミュレーションを行います。

100万回のシミュレーションから見えてくる「研究者の未来」を、一緒に見ていきましょう。



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