前回は、データのばらつきを表す最も基本的な指標である範囲(Range)について学びました。範囲は「最大値から最小値を引く」という非常に単純な計算で求められるため、データの広がりを素早く把握するには便利な指標です。
しかし、統計学では範囲だけでは十分ではありません。
その理由は、範囲は最大値と最小値の2つの値しか利用していないからです。たとえば、100人のデータがあっても、計算に使われるのは最大値と最小値だけであり、残り98人の情報は反映されません。そのため、一つだけ極端に大きい値や小さい値が含まれるだけで、範囲は大きく変化してしまいます。
研究やデータ分析では、データ全体がどの程度散らばっているのかを評価することが重要です。そこで考えられた指標が分散(Variance)です。
分散は、すべての観測値を用いてデータのばらつきを定量化する指標であり、標準偏差、回帰分析、分散分析(ANOVA)、機械学習など、多くの統計手法の基礎となっています。
今回は、分散の意味や計算方法、平均との差を二乗する理由、そして研究や実務でどのように利用されているのかを学んでいきましょう。
分散とは
分散とは、データが平均値からどの程度離れているかを表す指標です。
平均値はデータの「中心」を示しますが、それだけではデータの散らばり方までは分かりません。平均値が同じであっても、データが平均付近に集中している場合もあれば、広い範囲に分布している場合もあります。
分散は、それぞれのデータが平均値からどれだけ離れているかを考え、その情報をすべて利用してばらつきを評価します。
平均値の近くにデータが集まっていれば分散は小さくなり、平均値から遠く離れたデータが多いほど分散は大きくなります。つまり、分散はデータの散らばり具合を数値として比較できる指標なのです。
なぜ平均との差を見るのか
分散では、各データが平均値からどれだけ離れているかを利用します。
その理由を理解するために、次の2つのデータを見てみましょう。
A:68、69、70、71、72
B:40、55、70、85、100
どちらも平均値は70です。
しかし、Aは70点付近にデータが集中しているのに対し、Bは40点から100点まで大きく広がっています。平均値だけを見ると両者は同じですが、データの性質は明らかに異なります。
この違いを数値として表現するために利用されるのが平均との差(偏差)です。

平均値との差が小さいデータほど平均付近に集まっており、平均との差が大きいデータほど平均から離れていることを意味します。分散は、この偏差を利用することで、データ全体のばらつきを評価しています。
なぜ二乗するのか
ここで一つ問題があります。
平均との差をそのまま足し合わせると、正の値と負の値が打ち消し合ってしまい、合計は必ず0になります。
例えば、
68、69、70、71、72
というデータでは、平均との差は
-2、-1、0、1、2
となります。
これらを合計すると、
-2−1+0+1+2=0
となり、ばらつきの情報が失われてしまいます。
この問題を解決する方法はいくつか考えられますが、統計学では偏差を二乗する方法が採用されました。
二乗には二つの重要な意味があります。
一つ目は、すべての値が正になるため、正負が打ち消し合わないことです。
二つ目は、平均値から大きく離れた観測値ほど大きく評価されることです。
例えば、平均との差が1であれば二乗すると1ですが、差が5であれば25になります。このように、外れた値の影響をより強く反映できるため、データのばらつきを適切に表現しやすくなります。
数学的にも、二乗は微分可能で扱いやすく、多くの統計理論や最適化手法と相性が良いことから、現在でも統計学の基本的な考え方として広く採用されています。
分散の求め方
分散は、「平均との差の二乗の平均」として定義されます。
数式では次のように表されます。
母分散
s2=n−11i=1∑n(xi−xˉ)2
ここで、
- (x_i):各データ
- (\mu):母平均
- (N):データ数
を表します。
実際の研究では、母集団全体ではなく標本から分散を求めることがほとんどです。その場合には、
という不偏分散を用います。
本記事では分散の考え方を理解することを目的としているため、計算例では平均との差の二乗の平均という基本的な考え方で説明します。不偏分散については、推測統計を学ぶ際に詳しく扱います。
計算例
データ
2、4、6
を考えます。
平均値は4です。
平均との差は、
-2、0、2
となります。
これを二乗すると、
4、0、4
になります。
最後に平均を求めると、
(4+0+4)÷3
=8÷3
≒2.67
となります。
したがって、このデータの分散は約2.67です。
分散から分かること
分散が小さいということは、多くのデータが平均値付近に集中していることを意味します。
一方、分散が大きい場合には、データは平均値から離れた位置にも多く存在しており、ばらつきが大きいことを意味します。
研究論文では平均値だけでなく、分散や標準偏差を併せて報告することが一般的です。例えば、「平均値は同じでも、治療群の方がばらつきが小さい」「新しい測定方法の方が安定している」といった評価は、分散や標準偏差があることで初めて可能になります。
分散の弱点
分散は非常に重要な指標ですが、解釈しにくいという欠点もあります。
最大の理由は、単位が二乗になることです。
例えば、身長をcmで測定した場合、分散の単位はcm²になります。試験の点数であれば点²です。
私たちは普段、「点²」や「cm²」という単位で考えることはほとんどありません。そのため、分散の値だけを見ても、どれくらいのばらつきなのかを直感的に理解することは容易ではありません。
そこで考えられたのが標準偏差です。
標準偏差は分散の平方根を取ることで元の単位に戻した指標であり、現在の研究や実務では分散よりも標準偏差の方が報告されることが多くなっています。
分散はどのような場面で使われるのか
分散は統計学だけでなく、教育、医療、経済学、工学、品質管理、AIなど幅広い分野で利用されています。
教育分野では、平均点が同じでもクラスによって学力のばらつきが異なることがあります。分散を用いることで、学力が均一なクラスなのか、それとも成績差が大きいクラスなのかを客観的に比較できます。
医療分野では、血圧や血糖値などの測定値のばらつきを評価する際に利用されます。また、新しい治療法が患者ごとに安定した効果を示しているかどうかを確認する際にも重要な役割を果たします。
工学や品質管理では、製品の寸法や重量などのばらつきを監視し、製造工程が安定しているかどうかを判断します。分散が急激に大きくなれば、製造工程に異常が発生している可能性が考えられます。
さらに、AIや機械学習では、特徴量の選択やデータの前処理、モデル評価など、多くの場面で分散の概念が利用されています。このように、分散は現代のデータサイエンスを支える基本概念の一つとなっています。
例題1(基礎)
問題
次のデータの分散を求めましょう。
3、5、7
解答
分散:8/3(約2.67)
解説
平均値は5です。平均との差は-2、0、2となります。これを二乗すると4、0、4となり、その平均は
(4+0+4)÷3=8/3
となるため、分散は約2.67です。
例題2(応用)
問題
AクラスとBクラスの平均点はどちらも70点でした。
Aクラス
68、69、70、71、72
Bクラス
40、55、70、85、100
どちらの分散が大きいでしょうか。
解答
Bクラス
解説
両クラスとも平均値は70点ですが、Bクラスは平均値から大きく離れたデータが多く含まれています。そのため、偏差を二乗して平均すると、Bクラスの方がはるかに大きな値になります。平均値だけでは見えない「データの散らばり」を数量的に比較できることが、分散の大きな利点です。
まとめ
分散とは、データが平均値からどの程度離れているかを定量的に表す指標です。範囲とは異なり、すべてのデータを利用して計算するため、データ全体のばらつきをより適切に評価できます。また、偏差を二乗することで、正負の打ち消しを防ぐだけでなく、平均から大きく離れた観測値をより強く反映できるという特徴があります。
一方で、分散は単位が二乗になるため直感的には理解しにくく、研究論文や実務では、その平方根である標準偏差が報告されることが一般的です。それでも、標準偏差や分散分析、回帰分析、機械学習など、多くの統計手法は分散の考え方を基礎としており、分散を理解することは統計学を学ぶ上で欠かせない第一歩と言えるでしょう。
次の記事
「標準偏差とは?分散との違いとデータのばらつきの見方をわかりやすく解説」

分散の考え方を理解したら、次はいよいよ統計解析で最も頻繁に用いられる標準偏差を学びます。標準偏差は分散を元の単位に戻した指標であり、研究論文や学術誌でも最もよく目にするばらつきの指標です。分散との関係を理解すると、統計解析の結果をより正確に読み解けるようになります。

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