被引用数(Citation)だけで研究者は評価できるのか

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研究者評価の指標として、「被引用数(Citation Count)」は論文数(Publication Count)と並んで最も広く利用されている定量指標の一つです。

例えば、

「この研究者の論文は累計1,000回引用されている。」

という情報を目にすると、多くの人は「学術的な影響力の高い研究者なのだろう」と考えるでしょう。

実際、被引用数は、自身の研究成果が他の研究者によってどれだけ利用され、新たな知識創出に貢献したかを示す代表的な指標です。論文数が研究成果のを示す指標であるのに対し、被引用数は研究成果の学術的影響力(Scientific Impact)を測る指標として位置付けられています。

大学ランキングや研究評価、競争的研究費の分析などにおいても、被引用数は重要な評価項目として広く活用されています。

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しかし、その一方で、被引用数だけをもって研究者を評価することには多くの課題があることも知られています。本記事では、被引用数の意義と限界について、研究評価の観点から解説します。

被引用数とは何か

被引用数とは、自身の論文が他の学術論文の参考文献として引用された回数を指します。

例えば、ある論文が100本の論文から引用されていれば、その論文の被引用数は100回となります。

引用とは、既存研究を踏まえて新たな研究を展開する学術活動そのものであり、引用されるということは、その研究成果が後続研究に利用されたことを意味します。そのため、被引用数は研究成果の波及効果を示す代表的な指標として利用されています。

日本でも、文部科学省科学技術・学術政策研究所(NISTEP)は、日本の研究力分析において被引用数や高被引用論文数を重要な分析指標として用いています。

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参考:

分野によって引用文化は大きく異なる

被引用数を解釈する際に最も注意すべき点は、研究分野ごとに引用文化が大きく異なることです。

例えば、医学、生命科学、材料科学などでは年間に出版される論文数が非常に多く、研究の更新速度も速いため、引用数は自然と大きくなる傾向があります。

一方、数学や一部の人文・社会科学では論文出版数自体が少なく、研究成果が評価されるまでに長い時間を要することも珍しくありません。

したがって、

  • 医学分野で500回引用された論文
  • 数学分野で100回引用された論文

を単純に比較して優劣を判断することは適切ではありません。

この問題を補正するため、近年では論文ごとの分野・出版年を考慮したField-Weighted Citation Impact(FWCI)Category Normalized Citation Impact(CNCI)などの分野補正指標が広く利用されています。

参考:

被引用数は時間とともに蓄積される

被引用数には時間的な遅れ(Citation Delay)が存在します。

論文は出版直後に引用されるわけではありません。

研究者が論文を読み、新たな研究に活用し、査読を経て公表されるまでには数か月から数年を要するためです。

その結果、発表直後の優れた論文であっても、被引用数は必ずしも高くありません。

逆に、20年以上前に発表された論文は長期間にわたって引用が蓄積されているため、累積引用数は大きくなります。

このため、

  • 若手研究者とベテラン研究者
  • 最近出版された論文と古典的論文

を単純に累積被引用数だけで比較することには注意が必要です。

研究評価では、出版年を考慮した分析が一般的となっています。

被引用数は研究の質だけで決まるわけではない

引用数は研究成果の影響力を反映しますが、その決定要因は研究の質だけではありません。

例えば、

  • 著名研究者による論文
  • 国際共同研究
  • 大規模コンソーシアム論文
  • レビュー論文(総説)
  • 方法論を紹介した論文(Methods paper)

などは、一般的な原著論文よりも引用されやすいことが知られています。

特にレビュー論文は、その分野全体を概観する目的で幅広く引用されるため、原著論文よりも引用数が大きく伸びる傾向があります。

また、研究コミュニティの規模も重要な要因です。同じ質の研究成果であっても、研究者人口が多い分野ほど引用される可能性は高くなります。

つまり、被引用数は研究成果そのものだけではなく、研究分野、論文種別、研究コミュニティの規模など、複数の要因が重なった結果として理解する必要があります。

被引用数では評価できない研究活動も多い

研究者の活動は学術論文だけではありません。

例えば、

  • 企業との共同研究
  • 特許の創出
  • 行政への政策提言
  • 標準化活動
  • 教育・人材育成
  • 社会実装
  • 地域連携

などは、学術的にも社会的にも重要な研究成果ですが、多くの場合、被引用数には直接反映されません。

一方で、社会実装によって極めて大きなインパクトを生み出した研究であっても、学術論文として引用される機会は必ずしも多くない場合があります。

そのため、「引用されない研究=価値が低い研究」と結論付けることはできません。

被引用数は重要だが、単独では十分ではない

ここまで述べてきたように、被引用数にはさまざまな限界があります。

しかし、それは被引用数が不要という意味ではありません。

被引用数は、研究成果が学術コミュニティに与えた影響を定量的に把握できる極めて有用な指標であり、研究評価において今後も重要な役割を担い続けるでしょう。

一方で、近年の研究評価では、「一つの指標のみで研究者を評価すべきではない」という考え方が国際的な共通認識となっています。

代表的な提言として、2012年に公表されたSan Francisco Declaration on Research Assessment(DORA)では、研究者評価を単一の計量指標に依存すべきではないことが示されています。また、2015年のLeiden Manifestoでも、計量指標は専門家による質的評価を補完するものとして利用すべきであると提言されています。

参考:

おわりに

被引用数は、研究成果の学術的影響力を把握する上で極めて重要な指標です。しかし、その数値は研究分野、出版年、論文種別、研究コミュニティの規模など、多様な要因の影響を受けます。

したがって、研究者評価では被引用数だけを見るのではなく、論文数、分野補正後の引用指標、高被引用論文数、競争的研究費、共同研究、知的財産、社会実装、教育活動など、多面的な情報を組み合わせて評価することが求められます。

被引用数は研究者を映す「鏡」の一つではありますが、その鏡だけでは研究活動の全体像を映し出すことはできません。

研究評価において重要なのは、個々の指標が持つ意味と限界を理解し、それぞれを適切に解釈することです。そのような多面的な視点こそが、公平性と説明責任を備えた研究評価につながると言えるでしょう。

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