モンテカルロシミュレーションで考える「研究者の採択率」
「今年も不採択だった。」
科研費の結果が公表されるたび、多くの研究者が一喜一憂します。
採択された人は新しい研究に向けて歩き出し、不採択だった人は研究計画を見直し、翌年の申請に向けて再び準備を始めます。
私自身、多くの研究者と接する中で、結果通知の後によく耳にする言葉があります。
「自分は科研費に向いていないのではないか。」
「何年も採択されていない。」
「もう研究を続ける自信がない。」
しかし、本当に一度の結果だけで、自分の研究力を判断してよいのでしょうか。
今回は、その問いを「モンテカルロシミュレーション」という考え方から見てみたいと思います。
この記事は数式を覚えるためのものではありません。研究者として、自分の研究人生を少し違った角度から眺めるための記事です。
一度の結果は、多くを語らない
科研費の結果はシンプルです。
採択か、不採択か。
そのため、私たちはどうしても一度の結果に強く反応してしまいます。
しかし、統計学の視点で見ると、一度の結果だけから何かを結論づけることは非常に難しいことです。
例えば、採択率が30%だったとします。
今年採択される確率は30%です。
言い換えれば、70%の確率で不採択になります。
つまり、「今年落ちた」という結果は、それだけでは珍しいことではありません。
それにもかかわらず、多くの研究者は「落ちた」という事実だけを見て、自分自身を評価してしまいます。
これは研究者に限った話ではありません。
私たちは、一度の成功や失敗を必要以上に重く受け止めてしまう傾向があります。
しかし、研究とは本来、長い時間をかけて積み重ねる営みです。
一年だけを切り取って評価することは、本当に適切なのでしょうか。
あなたは自分の採択率を知っていますか
ここで、一つ質問があります。
あなたは、自分の科研費採択率を把握しているでしょうか。
これまで何回申請し、何回採択されたのか。
その割合は何%なのか。
論文数や被引用数は把握していても、自分の採択率まで意識している研究者は意外に多くありません。
しかし、自分の研究人生を振り返る上では、この数字は一つの重要な手がかりになります。
もちろん、採択率だけで研究者の実力が決まるわけではありません。
研究分野、研究環境、競争率、ライフイベントなど、多くの要因が影響します。
それでも、「これまで自分がどのような結果を積み重ねてきたのか」を客観的な数字で見つめることには意味があります。
モンテカルロシミュレーションという考え方
ここで登場するのがモンテカルロシミュレーションです。
難しい名前ですが、考え方は意外と単純です。
もし同じ条件で人生を何万回もやり直せたら、どのような結果になるのだろう。
これをコンピュータの中で再現する手法です。
例えば、採択率30%の研究者が10年間申請を続けるとします。
現実には未来は一度しかありません。
しかしコンピュータなら、この10年間を100万回でも再現できます。
ある未来では5回採択されるかもしれません。
別の未来では2回かもしれません。
あるいは一度も採択されない未来も存在します。
重要なのは、そのすべてが「採択率30%」という同じ条件から生まれているということです。
モンテカルロシミュレーションは未来を予言するものではありません。
未来にどのような可能性があるのか、その全体像を見せてくれる手法なのです。
「運が悪かった」はどこまで本当か
研究者同士で話をしていると、「今年は運が悪かった」という言葉を耳にすることがあります。
確かに、審査には偶然の要素も存在します。
しかし、その「運」がどの程度のものなのかを考える機会はあまりありません。
例えば、採択率30%の研究者が5年間連続で不採択になる確率は約17%です。
これは決してゼロではありません。
およそ6人に1人は経験する計算になります。
逆に、5年間連続で採択される確率は約0.24%です。
こちらは約400人に1人です。
どちらも起こり得ます。
しかし、その起こりやすさは大きく異なります。
つまり、「運だった」という言葉だけでは何も見えてきません。
重要なのは、自分の結果がどのくらい起こり得るものなのかを知ることです。
採択率は「実力」ではなく「現在地」
ここで誤解してほしくないことがあります。
私は採択率が研究者の能力を表しているとは考えていません。
採択率は、今この時点での「現在地」を表す指標です。
マラソンでいえば、今どの地点を走っているのかを示す目印のようなものです。
これから論文が増えるかもしれません。
共同研究が始まるかもしれません。
新しい研究テーマが成熟するかもしれません。
つまり、採択率は固定されたものではなく、変化するものです。
だからこそ、自分の現在地を知ることには意味があります。
一年ではなく、十年で考えてみる
科研費は一年ごとに結果が届きます。
そのため、どうしても一年単位で考えてしまいます。
しかし、研究者人生は一年で終わるものではありません。
十年、二十年という時間の中で積み重なっていきます。
モンテカルロシミュレーションは、その長い時間軸を見せてくれる手法です。
人生シミュレーターはこちら
過去の申請回数と採択回数から、今後10回申請したらどうなるか?をシミュレートします。
ベイズ確率を用いて基盤研究(C)の採択可能性をモンテカルロシミュレートします。参考程度にお使いください。
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一度の採択や不採択ではなく、十年間でどのような結果が起こり得るのか。
その視点を持つだけでも、目の前の結果の見え方は変わるはずです。
おわりに
科研費の結果通知には、「採択」か「不採択」かという一つの結果しか書かれていません。
しかし、その一枚の通知の裏側には、数え切れないほどの可能性が存在しています。
もし研究計画が少し違っていたら。
もし別の年度に申請していたら。
もしもう一年準備期間があったら。
現実は一度しかありません。
だからこそ私たちは、その一度の結果に大きく心を動かされます。
モンテカルロシミュレーションは、その一度しかない現実の背後にある「多くの可能性」を考えるための道具です。
未来を予言することはできません。
しかし、「どのような未来が、どのくらいの確率で起こり得るのか」を知ることはできます。
もしこの記事を読んで、「今年の結果だけで自分を評価するのはやめよう」と感じていただけたなら、これほど嬉しいことはありません。
次回予告
この記事では、「採択率」という考え方を紹介しました。
では、その採択率はどのように求めればよいのでしょうか。
単純に「採択数÷申請数」と計算すると、申請回数が少ない研究者ほど偶然の影響を大きく受けてしまいます。
次回は、ベイズ統計を用いて、これまでの申請実績から現在の採択率をより安定して推定する方法を紹介します。

そして、その推定した採択率を使って、「あと10年間で何回採択される可能性があるのか」を実際にシミュレーションしてみたいと思います。



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