データから見えてくる科研費採択者の特徴

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採択者には特別な才能があるのだろうか

科研費の採択結果が公表されるたびに、「あの先生だから採択された」という声を耳にすることがある。

確かに、研究者の実績は重要である。優れた業績を持つ研究者が採択されやすい傾向は、否定できない。過去に質の高い研究成果を出している研究者であれば、審査委員もその研究遂行能力を評価しやすい。

しかし、採択結果を見ていると、単純な実績の多寡だけでは説明できないケースも少なくない。

論文数が多くても不採択になる研究者がいる。一方で、若手研究者や比較的業績の少ない研究者が採択されることもある。

もし科研費の採択が単純に業績だけで決まるのであれば、このような現象は起こらないはずである。

では、採択者にはどのような特徴があるのだろうか。

研究活動に関するさまざまなデータや、研究支援の現場で得られる経験を踏まえると、採択される研究者にはいくつかの傾向が見えてくる。

それは、単に論文数が多いとか、研究費の獲得実績が豊富であるという話ではない。

むしろ、研究テーマの一貫性、研究ネットワーク、課題の育て方、実現可能性の見極め方、そして過去の研究成果と将来の研究計画のつなげ方に特徴があるように思われる。

論文数が多ければ採択されるわけではない

まず最初に触れておきたいのは、論文数と科研費採択は単純な比例関係にはないということである。

もちろん、一定の研究実績は重要である。過去の研究成果は、「この研究者が研究を遂行できるか」を判断する材料になる。申請者がこれまでどのような研究を行い、どのような成果を出してきたのかは、審査において無視できない要素である。

しかし、論文数だけで採択結果を説明しようとすると無理が生じる。

研究者によって分野が異なる。共著文化も異なる。論文の生産サイクルも異なる。短期間で多くの論文が出る分野もあれば、一つの研究成果を出すまでに長い時間がかかる分野もある。

そのため、「論文数が多いから採択される」「論文数が少ないから採択されない」という単純な関係は成立しない。

また、論文数が多くても、申請する研究課題との関係が見えにくければ、審査委員はその実績を研究遂行能力の根拠として評価しにくい。逆に、論文数がそれほど多くなくても、申請内容と密接に関係する研究成果が積み重なっていれば、研究計画の説得力は高まる。

重要なのは、業績の量そのものではない。

これまでどのような問題意識を持って研究を続けてきたのか。そして、その蓄積が今回の研究計画にどのようにつながっているのかである。

採択者の申請書を見ると、過去の研究成果が単なる実績として並んでいるのではなく、今回の研究課題を支える根拠として機能していることが多い。

つまり、論文数そのものよりも、その論文群がどのような研究ストーリーを形づくっているのかが重要なのである。

採択者は研究テーマに一貫性がある

研究支援の現場で採択者の研究歴を見ると、一つの特徴がある。

それは、研究テーマに一定の一貫性が見られることである。

もちろん、研究は常に発展する。研究者は新しいテーマにも挑戦するし、社会や学術の変化に応じて研究対象や方法を変えていく。したがって、同じテーマだけを何十年も繰り返しているという意味ではない。

しかし、採択される研究者の研究歴をたどると、問題意識の連続性が見えることが多い。

例えば、教育評価を研究してきた研究者が、生成AIの教育利用に研究テーマを広げる。これは一見すると新しいテーマへの転換に見える。しかし、根底には「学習をどのように評価し、支援するのか」という問題意識が連続している。

あるいは、地域医療を研究してきた研究者が、医療DXや遠隔医療の研究へ発展させる場合もある。これも研究対象や方法は変化しているが、「地域における医療アクセスをどう改善するか」という課題意識はつながっている。

このような発展は、審査委員にとって理解しやすい。

なぜなら、これまでの研究蓄積が今回の研究課題につながっていることが分かるからである。

一方で、これまでの研究との接点が見えないテーマは、審査委員にとって評価が難しくなる。

どれほど面白い研究テーマであっても、「なぜこの研究者がこの課題に取り組むのか」が見えなければ、研究遂行能力に疑問が生じることがある。

採択者は、研究テーマを変えているように見えても、実際には問題意識が連続していることが多い。

研究の発展とは、単に新しい話題に移ることではない。これまでの研究蓄積を踏まえ、新たな課題へと自然に展開していくことである。

その一貫性が、申請書全体の説得力を支えているのである。

研究ネットワークは見えない資産である

研究活動は、個人競技のように見えることがある。

論文を書くのも、申請書を書くのも、最終的には研究者個人の責任である。そのため、研究成果は個人の能力によって決まると思われがちである。

しかし実際には、多くの研究は共同研究者や研究協力者とのネットワークによって支えられている。

採択者を見ていると、研究コミュニティとの接点を持っているケースが多い。

これは、単に人脈が広いという意味ではない。

研究を進める上で必要な知識、技術、データ、研究対象へのアクセスを確保しているということである。

例えば、調査研究であれば、調査対象となる学校、自治体、企業、医療機関などとの関係が重要になる。実験研究であれば、必要な設備や技術を持つ研究者との連携が必要になる。データサイエンスを活用する研究であれば、データ解析に強い共同研究者の存在が研究の実現可能性を高める。

また、異分野融合研究では、自分の専門外の知見を補完してくれる研究者とのネットワークが不可欠である。

科研費申請書では、共同研究体制や研究協力者が記載されることが多い。しかし、その背後には、長年にわたって築かれてきた研究ネットワークが存在している。

採択される申請書では、研究体制が単なる名前の羅列になっていない。

誰がどの部分を担当するのか、どのような専門性を持っているのか、その体制によってなぜ研究が実現可能になるのかが説明されている。

研究は一人で行うものだと思われがちである。

しかし採択者ほど、自分一人でできることと、他者と連携すべきことを理解している。

そして、研究課題を実現するために必要な協力体制を構築しているのである。

研究ネットワークは、申請書の中では見えにくい資産である。

しかし、それは研究計画の実現可能性を支える重要な基盤なのである。

採択者は研究課題を育てている

第2章では、課題設定の重要性について述べた。

実は、採択される研究課題は、申請書を書く直前に突然思いついたものではないことが多い。

むしろ、過去の研究成果の中から、少しずつ問題意識を発展させてきたものが多い。

研究者は、学会発表を行う。論文を書く。共同研究を行う。調査や実験を進める。その過程で、新たな疑問が生まれる。

ある研究を終えたときに、「ここまでは分かったが、この点はまだ分からない」と感じることがある。論文の査読コメントを通じて、自分では意識していなかった課題に気づくこともある。学会での議論を通じて、新しい研究の方向性が見えてくることもある。

こうした積み重ねの中で、次の研究課題が育っていく。

研究支援の立場から見ると、採択された研究課題ほど、突然生まれたアイデアではなく、長期間にわたって育てられたテーマであることが多い。

そのため、課題設定に説得力がある。

なぜその課題に取り組むのか。何が未解決なのか。なぜ今取り組む必要があるのか。なぜその研究者が取り組むのか。

こうした問いに対する答えが、研究者自身の研究歴の中に存在しているからである。

一方で、申請のために急いで作られた研究課題は、どこか不自然に見えることがある。

研究テーマとしては流行している。社会的にも重要である。しかし、申請者のこれまでの研究との関係が見えない。問題意識の深まりが伝わらない。

そのような場合、審査委員は研究の実現可能性や継続性に不安を感じることがある。

採択者は、研究課題を一度の申請で作っているのではない。

日々の研究活動の中で、少しずつ課題を育てているのである。

採択者は「できること」と「やりたいこと」のバランスが良い

研究者には、二つの力が必要である。

一つは、やりたいことを考える力である。

まだ誰も明らかにしていない課題に挑戦したい。新しい方法を試したい。社会や学術に大きく貢献する研究を行いたい。こうした思いは、研究を前に進める原動力である。

もう一つは、できることを見極める力である。

研究期間内にどこまで達成できるのか。現在の研究体制で何が可能なのか。データは本当に集められるのか。分析に必要な技術は備わっているのか。研究資源は足りているのか。

この現実的な見極めも、研究計画には不可欠である。

前者だけでは、研究計画は夢物語になる。後者だけでは、挑戦性のある研究は生まれない。

採択者を見ていると、この二つのバランスが良い。

研究として挑戦的でありながら、実現可能性も備えている。新しい課題に取り組んでいるが、研究期間内に到達可能な範囲に計画が整理されている。大きな問題意識を持ちながらも、申請書では具体的な研究課題に落とし込んでいる。

審査委員は、このバランスを敏感に感じ取る。

あまりにも安全な計画であれば、研究としての新規性や意義が弱く見える。一方で、あまりにも大きすぎる計画であれば、実現可能性に疑問が生じる。

採択される研究計画は、魅力的であると同時に現実的である。

このバランスが、申請書の説得力を生み出しているのである。

実績そのものよりも実績の使い方が重要である

科研費申請では、研究業績が重要な意味を持つ。

そのため、業績が多いほど有利だと考えられがちである。

もちろん、豊富な研究業績は研究遂行能力を示す重要な材料になる。しかし、重要なのは業績の量だけではない。

その業績が、申請内容とどのように結び付いているかである。

例えば、申請テーマと関係の深い研究成果が蓄積されていれば、審査委員は「この研究者はこの課題に取り組む準備ができている」と判断しやすい。

過去の論文、学会発表、共同研究、予備的な調査結果が今回の研究計画につながっていれば、申請書全体に説得力が生まれる。

一方で、業績は多くても、申請内容との関連性が見えなければ、十分な説得力にはならない。

審査委員が知りたいのは、単に「この研究者は業績がある」ということではない。

「この研究者は、この研究を遂行できるだけの蓄積を持っているのか」ということである。

採択者は、過去の研究成果と将来の研究計画が自然につながっている。

そのため、申請書を読んだ審査委員に「この研究はこの研究者だからできる」という印象を与えることができる。

これは非常に重要である。

科研費申請書では、研究課題の重要性や新規性を示すだけでなく、申請者自身がその研究を実施する必然性を示す必要がある。

その必然性を支えるのが、過去の研究実績なのである。

実績は、単に多ければよいわけではない。

申請する研究計画の中で、どのような意味を持つのかが重要なのである。

データだけでは説明できないこともある

ここまで、採択者に見られる特徴について考えてきた。

研究テーマの一貫性、研究ネットワーク、研究課題の育て方、挑戦性と実現可能性のバランス、過去の実績と将来計画のつながり。

これらは、研究活動に関するデータや研究支援の経験から見えてくる重要な傾向である。

しかし最後に、強調しておきたいことがある。

研究活動は、完全に数値化できるものではない。

論文数、被引用数、研究費の獲得実績、共同研究数などは、研究活動を理解する上で重要な指標である。研究IRの観点から見ても、これらのデータは研究者や研究組織の特徴を把握するために有用である。

しかし、それだけで科研費の採択結果を説明することはできない。

研究課題の魅力。

問題意識の深さ。

研究者の熱意。

将来性。

申請書全体から伝わる説得力。

こうした要素は、数値だけでは捉えにくい。

だからこそ、科研費審査では定量的な実績だけでなく、研究計画そのものが重視されるのである。

データは重要である。

しかし、データは研究者のすべてを表すものではない。

研究IRの視点から科研費採択を考えるときにも、この点は忘れてはならない。数値は傾向を示す。しかし、最終的に審査委員が評価するのは、申請書に書かれた研究計画の内容であり、その研究が生み出す可能性である。

採択者の特徴をデータから考えることは有用である。

しかし、データだけで採択を予測しようとすることには限界がある。

重要なのは、データから見える傾向と、申請書から伝わる研究の質を組み合わせて理解することである。

第7章のまとめ

科研費採択者には、一定の共通点が見られる。

しかしそれは、単に論文数が多いとか、研究費獲得実績が豊富であるといった単純な話ではない。

むしろ、採択者には、研究テーマに一貫性がある。研究ネットワークを持っている。研究課題を長期間かけて育てている。挑戦性と実現可能性のバランスが良い。過去の研究成果と将来の研究計画が自然につながっている。

こうした特徴が見えてくる。

採択者は、特別な才能を持った研究者というより、研究課題を継続的に磨き上げている研究者なのかもしれない。

日々の研究活動の中で問題意識を深め、学会発表や論文執筆を通じて課題を育て、研究ネットワークを築きながら、次の研究計画へと発展させている。

その積み重ねが、申請書の説得力として表れる。

もちろん、科研費審査において競争率や審査状況の影響は避けられない。採択されるかどうかを完全に予測することはできない。

しかし、採択される研究者の特徴を理解することは、自分の研究計画を見直す上で大きな手がかりになる。

自分の研究テーマには一貫性があるか。

これまでの研究成果と申請内容はつながっているか。

研究課題は十分に育っているか。

必要な研究ネットワークはあるか。

挑戦性と実現可能性のバランスは取れているか。

こうした問いに向き合うことで、申請書の説得力は高まっていく。

では、生成AIが急速に普及する現在、こうした科研費申請のあり方はどのように変わっていくのだろうか。

最終章では、ChatGPTをはじめとする生成AI時代の科研費申請と研究支援について考えてみたい。

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