不採択申請書に共通する5つの特徴

大学教員・研究関連

不採択には理由がある

ここまで、科研費申請書において重要となる課題設定、新規性、方法論、図表という観点から、採択される申請書の特徴を見てきた。

課題設定は、研究計画の土台である。新規性は、その研究が既存研究に対してどのような価値を加えるのかを示す。方法論は、その研究が本当に実現可能であることを示す。そして図表は、研究計画の価値を審査委員に効率よく伝えるための手段である。

これらの要素が適切に組み合わさることで、申請書は説得力を持つ。

もちろん、どれほど優れた申請書であっても、必ず採択されるわけではない。科研費審査は競争的資金の審査であり、相対評価の側面を持っている。同じ年度にどのような申請が集まるか、審査区分の中でどのような競争状況になるかによって、結果は大きく左右される。

したがって、「良い申請書であれば必ず採択される」とは言えない。

しかし一方で、研究支援の現場で数多くの申請書を見ていると、「なぜ評価されなかったのか」が比較的明確に見えるケースも少なくない。

興味深いことに、不採択になりやすい申請書には共通した特徴がある。

それは、研究者の能力が低いということではない。むしろ、優れた研究者であっても、申請書になると同じような問題を抱えてしまうことがある。

研究内容そのものは重要であり、研究者にも十分な実績がある。それにもかかわらず、申請書として読むと課題が見えにくい。新規性が伝わらない。方法論が曖昧である。研究計画の全体像がつかみにくい。

その結果、審査委員が評価しにくい申請書になってしまうのである。

本章では、研究支援の現場で頻繁に見られる、不採択申請書に共通する五つの特徴について考えてみたい。

背景説明が長く、課題が見えない

不採択になりやすい申請書で最もよく見られる問題の一つが、背景説明が長く、肝心の研究課題が見えにくいことである。

研究者は自分の専門分野について深く理解している。そのため、申請書を書く際に「まず背景を理解してもらわなければならない」と考える。

その結果、研究史、制度の変遷、理論的背景、社会的状況などについて丁寧に説明することになる。

もちろん、背景説明そのものが悪いわけではない。研究課題の重要性を理解してもらうためには、背景の説明は不可欠である。特に、審査委員が必ずしも申請者とまったく同じ専門領域の研究者とは限らないことを考えると、研究の文脈を丁寧に説明することは重要である。

問題は、その説明が長くなりすぎることである。

数ページ読んでも、「結局、何が問題なのか」が見えてこない申請書がある。背景は詳しく書かれている。関連する制度や先行研究も紹介されている。しかし、本研究が解決しようとする未解決課題がなかなか示されない。

このような申請書を読むと、審査委員は途中で迷ってしまう。

審査委員が知りたいのは、研究史の詳細そのものではない。社会的背景の網羅的な説明でもない。

審査委員が知りたいのは、「何がまだ解決されていないのか」である。

背景説明は、研究課題を理解するために存在する。背景説明そのものが目的になってしまうと、研究計画の焦点がぼやける。

採択される申請書では、背景から課題への移行が非常に早い。

必要な背景を簡潔に示した上で、「その中で何が未解決なのか」「なぜ本研究でそれに取り組む必要があるのか」が明確に提示されている。

つまり、背景説明は研究課題へ読者を導くための導入でなければならない。

不採択になりやすい申請書では、背景が長すぎるために、研究課題が埋もれてしまう。採択される申請書では、背景が研究課題を浮かび上がらせる役割を果たしている。

この違いは非常に大きい。

何が新しいのか分からない

第3章でも述べたように、新規性は科研費審査において重要な評価項目である。

しかし、不採択になりやすい申請書では、「新規性があります」と書かれているにもかかわらず、実際には何が新しいのか分からないということが起こる。

例えば、「本研究は独創的である」「これまでにない視点を提供する」「学術的に新しい知見を生み出す」といった表現が並んでいる申請書がある。

一見すると、新規性を主張しているように見える。

しかし、それだけでは新規性の説明にはならない。

なぜなら、審査委員が知りたいのは「新しい」という結論ではなく、「何と比べて新しいのか」だからである。

先行研究では何が分かっているのか。何がまだ分かっていないのか。本研究はその未解決部分に対して何を明らかにするのか。

この比較がなければ、新規性は評価できない。

申請者自身が「新しい」と感じていたとしても、審査委員が先行研究との関係を理解できなければ、その新しさは伝わらない。審査委員は申請者の熱意ではなく、根拠を見ているのである。

不採択になりやすい申請書では、新規性が抽象的な言葉で語られていることが多い。

一方、採択される申請書では、新規性が自然に理解できる構造になっている。

先行研究で分かっていることが整理され、その限界が示され、その限界を本研究がどのように乗り越えるのかが説明されている。そのため、申請書の中で「本研究は新規性がある」と強調しなくても、審査委員は新しさを理解できる。

新規性は、主張するものではない。

比較によって示すものである。

この点が曖昧な申請書は、研究の価値が十分に伝わりにくい。

やりたいことが多すぎる

研究支援業務の中で、特に若手研究者の申請書によく見られるのが、「やりたいことが多すぎる」という問題である。

研究への意欲が高いこと自体は素晴らしい。新しい課題に挑戦したい、幅広い成果を出したい、社会的にも学術的にも大きなインパクトを生み出したい。そのように考えることは、研究者として自然なことである。

しかし、科研費申請書においては、その意欲が逆効果になることがある。

例えば、一つの研究計画の中に、全国規模の調査、国際比較、システム開発、実証研究、理論構築がすべて盛り込まれている場合がある。

確かに、すべてが実現すれば非常に魅力的な研究になるだろう。研究成果の幅も広く、インパクトも大きいかもしれない。

しかし、審査委員の視点から見ると、別の疑問が生じる。

「本当にできるのだろうか」

という疑問である。

科研費審査は、夢を評価する場ではない。研究計画を評価する場である。

どれほど魅力的な構想であっても、研究期間内に実現できなければ高い評価にはつながらない。限られた期間、限られた予算、限られた研究体制の中で、本当にそこまで到達できるのかが問われるのである。

不採択になりやすい申請書では、研究内容が大きすぎるために、実現可能性が弱く見えてしまうことがある。

一方、採択される研究者ほど、「やらないこと」を決めている。

研究期間内に何を達成するのか。どこまでを本研究の範囲とし、どこから先は今後の課題とするのか。その線引きが明確である。

研究計画の質は、盛り込んだ内容の多さによって決まるわけではない。

むしろ、限られた条件の中で何を達成するのかが明確であり、その達成可能性が高いことによって評価される。

大きな構想を持つことは重要である。

しかし申請書では、その大きな構想の中から、研究期間内に実現可能な課題を切り出して示す必要がある。

方法論が曖昧である

研究テーマは魅力的である。課題設定も興味深い。新規性もありそうである。

しかし、「どうやって検証するのか」が分からない。

こうした申請書は意外に多い。

例えば、「アンケート調査を実施する」と書かれている。しかし、誰を対象にするのか、何人を対象にするのか、どのような項目を測定するのか、どのような分析を行うのかが十分に示されていない。

あるいは、「AIを活用する」と書かれている。しかし、どのようなデータを用いるのか、どのアルゴリズムを使うのか、何を予測するのか、どのように性能を評価するのかが見えてこない。

このような申請書では、研究の面白さは伝わっても、実現可能性を判断することができない。

審査委員は、研究アイデアだけを評価しているわけではない。その研究が実際に遂行可能であるかどうかを判断しなければならない。

その判断材料となるのが方法論である。

方法論が曖昧であれば、審査委員は不安を抱く。

必要なデータは集まるのか。この方法で研究課題に答えられるのか。研究期間内に分析まで到達できるのか。研究者は実際にこの計画を遂行できるのか。

こうした疑問が解消されなければ、高い評価を付けることは難しい。

方法論が曖昧な申請書は、研究者自身が研究計画を十分に具体化できていないように見えてしまうこともある。

一方、採択される申請書では、研究方法を読むと実施手順がイメージできる。

研究対象、データ収集、分析手法、スケジュール、研究体制が具体的に示されており、研究がどのように進むのかが見える。そのため、審査委員は「この計画なら実施できそうだ」と判断しやすくなる。

方法論とは、単なる手続きの説明ではない。

研究計画の実現可能性を示すための重要な要素なのである。

審査委員の立場で書かれていない

最後に挙げたいのは、最も本質的な問題である。

それは、読み手の存在を忘れているということである。

研究者は自分の研究をよく知っている。研究の背景も、先行研究の流れも、専門用語の意味も、研究上の問題意識も理解している。

だからこそ、申請書を書くときに「説明しなくても伝わる」と思ってしまうことがある。

しかし、審査委員は申請者と同じ知識や問題意識を共有しているわけではない。

もちろん、審査委員は専門家である。しかし、申請者とまったく同じ研究領域を専門としているとは限らない。また、多数の申請書を限られた時間で読んでいるため、読み手に過度な負担をかける申請書は理解されにくい。

不採択になりやすい申請書では、専門用語が多すぎる、論理に飛躍がある、研究の位置づけが見えない、図表がなく全体像がつかみにくい、といった問題が生じていることがある。

研究者本人にとっては当然のことでも、審査委員にとっては説明が必要な場合がある。

申請者の頭の中ではつながっている論理も、申請書の文章では十分につながっていない場合がある。

研究支援の立場から見ると、不採択になりやすい申請書は、「研究者が書きたいこと」が中心になっていることが多い。

一方で、採択される申請書は、「審査委員が知りたいこと」が中心になっている。

この違いは非常に大きい。

審査委員が知りたいのは、なぜその課題が重要なのか、何が新しいのか、どのように実施するのか、本当に実現できるのか、どのような成果が期待できるのかである。

採択される申請書は、これらの問いに先回りして答えている。

科研費申請書は、自分の研究への思いをそのまま書く文書ではない。

審査委員が研究の価値を判断できるように設計する文書なのである。

共通する問題は一つである

ここまで、不採択になりやすい申請書に見られる五つの特徴を見てきた。

背景説明が長く、課題が見えない。

何が新しいのか分からない。

やりたいことが多すぎる。

方法論が曖昧である。

審査委員の立場で書かれていない。

一見すると、これらは別々の問題に見える。

しかし、実は共通する問題がある。

それは、審査委員が判断できないということである。

科研費審査は、研究の価値を判断するプロセスである。

そのためには、判断材料が必要である。

何を解決する研究なのか。既存研究と比べて何が新しいのか。研究期間内に本当に実施できるのか。方法論は妥当なのか。研究成果にはどのような価値があるのか。

これらが明確に示されていなければ、審査委員は高い評価を付けにくい。

不採択になりやすい申請書は、必ずしも研究の質が低いわけではない。

研究の価値を判断するための情報が不足している場合が少なくない。

つまり、問題は研究そのものではなく、申請書としての伝え方にあることも多いのである。

研究者にとっては価値のある研究であっても、その価値が審査委員に伝わらなければ評価されない。

この点を理解することが、申請書改善の出発点になる。

第6章のまとめ

不採択になりやすい申請書には、共通する特徴がある。

課題が見えない。

新規性が伝わらない。

実現可能性が不明確である。

方法論が曖昧である。

読み手への配慮が不足している。

これらの問題は、個別の欠点のように見える。しかし、すべては「審査委員が評価しにくい」という一つの問題につながっている。

科研費申請書は、自分の研究を説明する文書ではない。

審査委員が研究の価値を判断するための文書である。

この視点を持つだけでも、申請書の見え方は大きく変わる。

背景説明は、課題を浮かび上がらせるためにある。新規性は、先行研究との比較によって示す。研究計画は、やりたいことをすべて盛り込むのではなく、研究期間内に達成できる範囲に絞る。方法論は、実施手順がイメージできるほど具体的に書く。そして申請書全体を、審査委員が理解しやすい形に設計する。

こうした改善は、研究内容を変えることではない。

研究の価値が正しく伝わるように、申請書を整えることである。

不採択の理由を考えることは、単に失敗を振り返ることではない。次に採択される申請書を作るための重要な手がかりになる。

では、実際に採択される研究者にはどのような特徴があるのだろうか。

次章では、研究支援の経験だけでなく、研究IRの視点も交えながら、科研費採択者に共通する特徴について考えてみたい。

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