単純な採択率では見えてこない研究者の現在地
前回の記事では、「科研費の結果を一度だけで判断するのではなく、長期的な確率で考えてみよう」という視点を紹介しました。

その中で、「自分の採択率を知ることが出発点になる」とお話ししました。
では、その採択率はどのように計算すればよいのでしょうか。
多くの人は、次のように考えるかもしれません。
採択率 = 採択回数 ÷ 申請回数
一見すると、とても自然な計算方法です。
しかし、この方法には一つ大きな落とし穴があります。
初めて申請して採択した研究者の採択率は100%?
例えば、研究者Aさんが初めて科研費を申請し、見事採択されたとします。
この場合、
- 申請回数:1回
- 採択回数:1回
となるため、採択率は100%になります。
では、本当にこの研究者は「採択率100%の研究者」なのでしょうか。
おそらく、多くの人が「それは違う」と感じるでしょう。
たまたま最初の申請が採択された可能性もありますし、今後も毎回採択されるとは限りません。
逆に、初めて申請した研究者が不採択だった場合はどうでしょう。
採択率は0%になります。
しかし、この研究者が将来も採択されないと結論づける人はいないでしょう。
つまり、申請回数が少ない場合、単純な採択率は偶然の影響を強く受けてしまうのです。
ベテラン研究者ならどうでしょう
一方で、20回申請して6回採択された研究者がいるとします。
単純な採択率は30%です。
この数字は、先ほどの「1回申請して100%」よりも、はるかに信頼できそうに見えます。
なぜでしょうか。
理由は簡単です。
試行回数が多いからです。
コインを1回投げて表が出れば、表の割合は100%です。
しかし100回投げれば、その割合は50%前後に近づいていきます。
科研費も同じです。
申請回数が増えるほど、採択率はその研究者の実績をより安定して表すようになります。
「運」の影響は想像以上に大きい
若手研究者ほど申請回数は少なくなります。
そのため、単純な採択率は大きく上下します。
例えば、
1回採択すれば100%。
2回連続で不採択なら0%。
3回申請して1回採択なら33%。
これらの数字は、研究者の能力というよりも、偶然の影響を強く受けています。
もし、この数字だけで自分を評価してしまえば、
「自分は採択率100%だから安心だ」
あるいは
「採択率0%だから向いていない」
という誤った結論につながりかねません。
研究者として重要なのは、一時的な数字ではなく、「現在の自分がどのあたりにいるのか」をできるだけ客観的に知ることです。
では、どう考えればよいのでしょうか
ここで登場するのがベイズ統計です。
ベイズ統計という言葉を聞くと、難しい数式を思い浮かべるかもしれません。
しかし、考え方は意外とシンプルです。
過去の実績だけではなく、「一般的にはこれくらいだろう」という情報もあわせて考える。
それがベイズ統計の基本的な発想です。
例えば、全国の科研費採択率が約28%だとします。
初めて申請して採択した研究者がいたとしても、「いきなり採択率100%」とは考えません。
全国の傾向も参考にしながら、その研究者の採択率を少しずつ更新していきます。
逆に、20回、30回と申請実績が増えてくれば、全国平均よりも、その研究者自身の実績が強く反映されるようになります。
つまり、経験が少ないときは全体の情報を重視し、経験が増えるにつれて個人の実績を重視する。
これがベイズ統計の大きな特徴です。
採択率は「更新される情報」
私たちは採択率を一つの数字として考えがちです。
しかし、本来は固定された数字ではありません。
申請するたびに更新されていく情報です。
論文が増えれば変わります。
研究テーマが成熟すれば変わります。
共同研究が始まれば変わります。
採択率とは、研究者としての現在地を映し出すスナップショットなのです。
だからこそ、一度計算して終わりではなく、毎年更新していくことに意味があります。
次回はいよいよ計算してみます
今回は、「単純な採択率では十分ではない」という考え方を紹介しました。
では、実際にはどのように現在の採択率を推定すればよいのでしょうか。
次回は、全国平均採択率を利用したベイズ統計を使い、自分の申請回数と採択回数から「現在の採択率」を推定してみます。

数式は最小限に抑えながら、Excelでも計算できる方法を紹介します。
そして、その推定した採択率は、次回以降のモンテカルロシミュレーションの出発点になります。
いよいよ、自分自身の研究人生を「確率」というレンズで見つめ直す準備が整います。



コメント