研究者評価とは何か。数字だけでは測れない「研究力」の話

大学教員・研究関連

2024年、日本で初めて東北大学が「国際卓越研究大学」に認定されました。今後は、京都大学や東京科学大学なども含め、日本の研究力を世界トップレベルへ引き上げることが期待されています。

文部科学省は、国際卓越研究大学制度について、「世界最高水準の研究大学の実現」を目的として掲げています。
https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/daigakukenkyuryoku/

ニュースでは「研究力世界トップレベル」「国際競争力の強化」といった言葉が並びます。

しかし、ここで一つ疑問が生まれます。

「研究力」とは、一体どのように測るのでしょうか。

論文数でしょうか。

引用数でしょうか。

科研費の採択件数でしょうか。

あるいはノーベル賞受賞者の数でしょうか。

実は、この問いに明確な答えはありません。だからこそ、研究者評価は世界中で議論が続いているテーマでもあります。

研究者は何によって評価されるのか

大学では、昇任や人事評価、研究費の配分、組織評価など、さまざまな場面で研究者の評価が行われています。

代表的な評価指標には、

  • 論文数
  • 被引用数(Citation)
  • h-index
  • インパクトファクター
  • 科研費などの外部資金獲得実績
  • 特許や共同研究実績

などがあります。

これらはいずれも客観的な数字として比較しやすく、評価の透明性を高めるという大きなメリットがあります。

一方で、「数字だけでは研究者の実力を正しく評価できない」という問題も抱えています。

例えば、医学や生命科学では、一つの論文に数十人、多い場合には数百人の研究者が著者として名を連ねることがあります。そのため、一人の研究者が年間30本以上の論文を発表することも珍しくありません。

一方、人文社会科学や数学では、一つの論文を完成させるまでに数年を要することもあります。

同じ「年間10本の論文」という数字でも、その意味は研究分野によって全く異なるのです。

文部科学省も「数字だけでは評価しない」としている

こうした問題は、日本でも以前から認識されています。

文部科学省が定める「研究及び開発に関する評価指針」では、研究評価に当たっては、研究開発の特性を十分に踏まえ、定量的指標だけに依存するのではなく、専門家による評価なども組み合わせて総合的に判断することが基本的な考え方として示されています。

研究及び開発に関する評価指針
https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/hyouka/main11_a4.htm

これは、「数字は重要だが、数字だけで研究者を評価してはいけない」という考え方です。

実際、この考え方は世界共通の流れでもあります。

2015年には、科学計量学の研究者らによって「ライデン声明(Leiden Manifesto)」が公表されました。

その第一原則は、

定量的評価は、専門家による定性的評価を支援するために用いるべきである。

というものです。

つまり、数字は意思決定を助ける道具ではあっても、それ自体が評価のすべてではないということです。

「数字」は便利だからこそ注意が必要

数字には説得力があります。

論文数が100本と聞けば、多くの人は「優秀な研究者」という印象を持つでしょう。

しかし、その100本の論文は、責任著者として執筆したものなのか、それとも大規模共同研究の一員として参加したものなのかで意味は変わります。

被引用数も同じです。

AIや生命科学のように研究者人口が多い分野では引用数が増えやすく、一方で研究者人口が少ない分野では、優れた研究成果であっても引用数は伸びにくい傾向があります。

科研費も同様です。

科研費に採択されることは研究者として大きな実績ですが、採択は研究能力だけで決まるものではありません。

審査区分や応募件数、研究テーマの新規性、社会的要請など、さまざまな要因が重なって結果が決まります。

採択・不採択という結果だけで研究者の能力を判断することはできません。

数字は事実を表しています。

しかし、その数字が生まれた背景まで理解しなければ、本当の意味を読み取ることは難しいのです。

研究力は一つの物差しでは測れない

近年、研究活動はますます多様になっています。

論文を書くことだけが研究者の仕事ではありません。

企業との共同研究を推進する研究者もいます。

社会課題の解決に取り組む研究者もいます。

若手研究者の育成に力を注ぐ人もいます。

研究データを公開し、世界中の研究者が利用できる基盤を整備する人もいます。

こうした活動は、従来の論文数や引用数だけでは十分に評価することができません。

だからこそ、現在の研究評価では、一つの指標だけではなく、複数の指標を組み合わせて研究活動を総合的に評価する考え方が重視されるようになっています。

研究者評価とは、順位を付けるためだけのものではありません。

研究者一人ひとりの強みを理解し、その成果を社会へつなげるための仕組みでもあります。

研究力を正しく理解するためには、数字を見ることも大切です。しかし、それ以上に重要なのは、「その数字が何を意味しているのか」を考えることではないでしょうか。

数字は研究活動を映す鏡です。

ただし、その鏡に映るのは研究活動の一部に過ぎません。

数字を正しく読み解くこと。それこそが、研究者評価を考える第一歩なのだと思います。

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