AIが研究費を審査する時代がやってきた。AI for Scienceに応募してみた

AI・DX(研究者としてのAIの活用やDX推進)

今年、競争的資金の世界に新しい風が吹いた。

文部科学省が新たに始めた「AI for Science萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD)」である。

何が新しいのか。

研究テーマでも、予算規模でもない。

AIが審査プロセスに組み込まれたことである。

これまで競争的資金といえば、多くの研究者が研究計画調書を書き、それを専門家が何週間、何か月もかけて審査するのが当たり前だった。

ところが、この公募ではAIを補助的に活用した新しい審査方式が導入された。研究費の世界も、いよいよAI時代に突入したと言ってよいだろう。文部科学省自身も、この事業を通じて新しい研究評価システムの知見を得たいとしている。まさに「審査そのものも実験中」というわけだ。(文部科学省⁠)

科研費に似ている。でも決定的に違う。

研究計画調書を書き始めて最初に感じたのは、

「これ、科研費にかなり似ているな。」

ということだった。

背景、目的、方法、期待される成果。

このあたりの構成は、科研費を書いたことがある人なら違和感なく進められる。

しかし、一つだけ決定的に違う点がある。

「AIをどう研究に組み込むのか」を説明しなければならないことだ。

これまで積み重ねてきた専門分野に、AIという新しいエンジンをどう搭載するのか。

単に「ChatGPTを使います」では話にならない。

どのデータを使うのか。

どんなAIモデルを利用するのか。

研究がどのように加速されるのか。

さらにはAPI利用料や計算資源、データ利用料なども予算として計上する必要がある。科研費ではあまり見かけなかった項目が並び、「ああ、本当にAIを使う研究なんだ」と実感させられる。(文部科学省⁠)

情報系企業の営業ラッシュ

この公募が始まってからというもの、大学には情報系企業からの案内が一気に増えた。

GPU。

LLM。

クラウド。

AIエージェント。

生成AI。

API。

伴走支援。

次から次へと新しいサービスの紹介が届く。

まるで「AI特需」が始まったかのような勢いである。

研究者がAIを使う時代になるということは、その周辺産業も一斉に動き始めるということなのだろう。

スケジュールが、とにかく忙しい

今回の公募は年度内に研究を完了させることが前提となっている。

そのため、公募は年度内に2回実施され、採択後は短期間で研究を進めなければならない。

しかも途中には進捗確認も予定されている。

「研究費をもらって終わり」ではない。

採択された瞬間から全力疾走である。

ここまで来ると、

「研究者の瞬発力も試されているのでは?」

と思えてくる。

AIとの面接が始まった

私は第1回公募に応募した。

そこで待っていたのが、人生初のAIインタビューである。

パソコンに向かって自己紹介をし、

研究内容を説明し、

AIから飛んでくる質問に答えていく。

しかも音声認識。

キーボードではない。

誰もいない部屋で、

パソコンに向かって真剣に研究を語っている自分。

途中から何とも言えない恥ずかしさが込み上げてくる。

「時代はここまで来たのか。」

そんなことばかり考えてしまい、正直あまり集中できなかった。

後から聞くと、このAIインタビュー自体は評価点には直接関係しないとのこと。

だったら、AIに質問されながら別の生成AIに相談してみるという未来的な遊び方もできたかもしれない。

もちろん、思いついたのは終わってからである。

倍率を見て静かに現実へ戻る

何とか応募を終えた。

やり切った。

そう思っていた矢先、報道で応募状況を見た。

応募は15,868件、採択は456件。採択率は約2.9%。

……。

はい。

無理ですね(笑)。

宝くじとは言わないが、かなり狭き門である。(ICT教育ニュース⁠)

AI審査元年になるかもしれない

今回のSPReADは、単なる新しい競争的資金ではない。

研究そのものだけでなく、

研究費の配分方法、

審査方法、

AIの活用方法まで実験している。

そんな印象を受けた。

もちろん、最終的な評価には人間も関わる。

しかし、「AIが研究を支援する」だけではなく、「AIが研究費の審査にも関わる」という時代が現実になったことは間違いない。

数年後に振り返ったとき、

「あれがAI審査元年だったね。」

そんな日が来るのかもしれない。


公募情報(文部科学省)

AI for Science萌芽的挑戦研究創出事業(SPReAD)

SPReAD 1000 – 研究の可能性を、AIで解き放つ|文部科学省
本事業は、我が国のあらゆる分野の研究者等がAIを利活用して科学研究の高度化・加速化を図ることができるよう、萌芽的・探索的な研究を機動的に支援することにより、AI for Scienceの波及・振興を促進し、我が国独自の競争優位につながる新た…