ハゲタカジャーナル(Predatory Journals)をご存じですか?

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研究者であれば、一度は「ハゲタカジャーナル(Predatory Journals)」という言葉を耳にしたことがあるのではないでしょうか。

私がこの存在を初めて知ったのは平成30年(2018年)の秋頃だったと思います。ある報道で、特定の海外出版社が発行する雑誌に対して、日本の大学からどれだけの論文が投稿・掲載されているのかが取り上げられていました。

当時は「そんな雑誌があるのか」という程度の認識でした。しかし、その後、業務の中で、決して他人事ではない問題だと感じるようになりました。

オープンアクセスの拡大とハゲタカジャーナル

近年、研究成果の公表方法は大きく変化しています。その代表例がオープンアクセス(Open Access:OA)です。

かつては論文を読みたい人や所属機関が購読料を支払って閲覧するモデルが主流でした。しかし現在では、論文そのものを無料公開し、その代わりに著者側が掲載料(Article Processing Charge:APC)を支払う仕組みが広く普及しています。

研究成果を誰でも自由に読めるという点で、オープンアクセスは研究の発展に大きく貢献しています。しかし、この仕組みに目を付けた悪質な出版社も存在します。

本来、学術雑誌には厳格な査読(Peer Review)があり、専門家による評価を経て論文が掲載されます。しかしハゲタカジャーナルの中には、査読をほとんど行わず、あるいは査読を行ったように見せかけて、著者からAPCだけを徴収するものがあります。

研究者に対して大量の勧誘メールを送り、「特別号の編集委員になりませんか」「あなたの研究分野に最適な雑誌です」などと巧みに接触してきます。

研究者を獲物として捕食する姿から、こうした雑誌は「ハゲタカジャーナル」と呼ばれています。

実際には研究者の多くは引っかからない

先日、とある学術情報関連企業の方と話をする機会があり、再びこの話題になりました。その際に聞いた話では、現在では信頼できる学術雑誌よりも、ハゲタカジャーナルの数の方が多いとも言われているそうです。

もちろん定義や集計方法によって数字は変わりますが、

  • 信頼できる学術雑誌:約15,000誌
  • ハゲタカジャーナル:20,000誌以上

という推計もあるようです。

この数字だけを見ると、多くの研究者が被害に遭っているように感じるかもしれません。しかし実際には、研究者の大半はそう簡単には引っかかりません。なぜなら研究者には、それぞれの専門コミュニティが存在するからです。

私自身もそうですが、新しい研究成果を発表するときには、

「このテーマならこの学会誌」

「この分野ならこの国際誌」

という暗黙知があります。

指導教員から受け継がれ、共同研究者との会話の中で共有され、研究コミュニティ全体で形成されてきた知識です。そのため、まったく聞いたことのない雑誌から突然投稿依頼が届いても、多くの研究者はまず相手にしません。

私の場合も、毎日のように届く英文メールの大半は開封することなく削除しています。

それでも被害はなくならない

とはいえ、一定数の研究者が引っかかってしまうのも事実です。

特に若手研究者や大学院生の場合、

  • 早く業績を作りたい
  • 国際誌掲載実績が必要
  • 英語論文を出した経験が少ない

といった事情があります。

中には、

「国際誌に一定数掲載されなければ学位取得が難しい」

「昇進要件として論文数が求められる」

といった制度的なプレッシャーが背景にあるケースもあると聞きます。さらに厄介なのは、一度掲載されてしまうと記録が半永久的に残ることです。論文は研究者の履歴そのものです。

仮に後から問題が発覚しても、

「あの雑誌に投稿していた研究者」

という印象は残ってしまいます。いわば研究者版のデジタルタトゥーであり、だからこそ、投稿先の選定は慎重に行う必要があります。

投稿先が信頼できるか確認する方法

では、どのように確認すればよいのでしょうか。もちろん「ハゲタカジャーナル」で検索する方法もあります。しかし、そこは研究者です。可能な限りエビデンスに基づいて判断したいところです。

私が確認する際には、少なくとも次のような点を見ています。

1. 信頼できるデータベースに収録されているか

Scopus、Web of Science、PubMedなどの主要データベースへの収録状況は重要な判断材料になります。

もちろん収録されているから絶対安全というわけではありませんが、一定の品質管理は期待できます。

2. 出版社や編集委員会が実在するか

編集委員に著名研究者の名前が掲載されていても、本人が知らないケースがあります。

出版社の所在地や連絡先、編集委員の所属などを確認することをおすすめします。

3. 勧誘メールに違和感はないか

私のところにも頻繁にメールが届きます。

  • 専門分野とまったく関係のない雑誌
  • 過度に褒めてくる内容
  • 数日以内の投稿を求めるもの

こうした特徴が見られる場合は注意が必要です。

4. 査読期間やAPCが明確か

査読期間が極端に短い場合も警戒した方がよいでしょう。

特に、

「投稿から掲載まで2週間」

「査読完了まで10日」

などは現実的とは言えません。

実際に掲載済みの論文を確認すると、AcceptからPublishまで1か月程度というケースも見られます。分野にもよりますが、通常の査読プロセスを考えると違和感があります。

5. 研究コミュニティで認知されているか

学会や共同研究者に聞いてみるのも有効です。

研究者コミュニティの集合知は想像以上に強力です。

図書館は心強い味方

大学に所属している研究者であれば、図書館職員に相談するのも非常に有効です。

近年、大学図書館は学術情報流通に関する専門性を高めており、

  • 雑誌の信頼性
  • インパクト指標
  • データベース収録状況
  • オープンアクセスのポリシー

などについて豊富な知識を持っています。迷ったら図書館に相談するということが意外と近道かもしれません。

私が利用している確認サイト

私自身が投稿先を確認する際によく利用しているのがDOAJです。

Directory of Open Access Journals(DOAJ)

Directory of Open Access Journals – DOAJ
DOAJ is a unique and extensive index of diverse open access journals from around the world, driven by a growing communit…

DOAJは、一定の基準を満たした高品質なオープンアクセスジャーナルを収録しているデータベースです。

掲載基準も公開されており、信頼性確認の第一歩として非常に有用です。

また、研究者向けのチェックリストとして有名なのがこちらです。

Think. Check. Submit.

雑誌選定時に確認すべきポイントが整理されており、特に若手研究者には一度目を通しておくことをおすすめします。

最近はさらに厄介になっている

近年は生成AIの発展もあり、問題はさらに複雑化しています。

最近では、自分が知らないところで勝手に著者名を使われ、論文が公開されていたという事例も耳にします。

いわゆる「著者なりすまし」です。

研究者としては完全な被害者であり、防ぐことは極めて難しい問題です。

ORCIDなどの研究者識別子の活用は有効ですが、それでも完全な対策にはなりません。

研究の世界では、成果を公開することが重要である一方で、「どこに公開するか」も同じくらい重要になっています。

論文を書くことに多くの時間と労力を費やす研究者だからこそ、最後の投稿先選びで失敗しないようにしたいものです。

聞き慣れない雑誌に初めて投稿するときは、一度立ち止まって確認してみてください。

その数十分の確認が、将来の研究者人生を守ることにつながるかもしれません。

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