「日本の研究力が低下している。」
近年、このような報道を目にする機会が増えています。また、「国際卓越研究大学」や「研究力強化」といった言葉も、科学技術・イノベーション政策や大学改革の文脈で頻繁に用いられるようになりました。
しかし、「研究力」とは何を意味するのでしょうか。
研究者一人ひとりの研究活動を単一の尺度で評価できないように、大学や研究機関全体の研究力も一つの指標だけで表すことはできません。
研究力は、本来、多面的な概念です。
そのため、文部科学省や科学技術・学術政策研究所(NISTEP)、さらには国際的な大学ランキングや科学計量学の研究においても、複数の指標を組み合わせて総合的に評価する考え方が採られています。
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研究力を構成する主な評価指標
研究力を評価する際には、主に次のような指標が利用されます。
- 論文数
- 被引用数
- Top10%補正論文数(Top 10% most cited papers)
- Top1%補正論文数(Top 1% most cited papers)
- 国際共著論文率
- 外部研究資金獲得額
- 博士号取得者数
- 産学官共同研究・受託研究の実施状況
- 特許・技術移転・知的財産
- 研究データ公開やオープンサイエンスへの貢献
これらは、それぞれ異なる側面から研究活動を捉える指標であり、相互に補完し合う関係にあります。
例えば、論文数は研究成果の量的側面を示します。一方、被引用数や高被引用論文割合は、その成果が学術コミュニティにどの程度影響を与えたかという質的側面を表しています。
また、国際共著論文率は国際的な研究ネットワークや研究活動の開放性を示す指標であり、競争的研究費の獲得状況や産学官連携は、研究基盤や社会実装の状況を評価する上で重要な情報となります。
なぜ複数の指標が必要なのか
仮に、大学Aと大学Bを比較するとします。
大学Aは論文数が全国でもトップクラスですが、国際共著率はそれほど高くありません。
一方、大学Bは論文数では及ばないものの、高被引用論文の割合が高く、海外の研究機関との共同研究も盛んです。
この場合、どちらの大学の研究力が高いと評価すべきでしょうか。
答えは単純ではありません。
研究力には、
- 研究成果の量
- 学術的インパクト
- 国際性
- 研究資金獲得力
- 人材育成
- 社会実装
など、多様な要素が含まれるためです。
したがって、一つの指標のみで大学や研究機関を比較することは適切ではなく、多面的なエビデンスに基づく総合的な評価が求められます。
NISTEPが重視する高被引用論文指標
日本の研究力分析では、科学技術・学術政策研究所(NISTEP)が公表する『科学技術指標』が広く利用されています。
その中でも代表的な指標が、Top10%補正論文数およびTop1%補正論文数です。
これらは、各研究分野・出版年ごとに被引用数が上位10%または1%に入る論文を集計したものであり、引用文化が異なる分野間でも比較可能となるよう補正されています。
単純な総被引用数では、引用頻度の高い生命科学や医学分野が有利になりやすい一方、この指標では分野特性を考慮した比較が可能となることから、日本の科学技術政策における研究力分析でも重要な位置付けとなっています。
文部科学省が示す研究評価の基本原則
文部科学省の「研究及び開発に関する評価指針」においても、研究評価は定量的指標だけで完結するものではないとされています。
評価に当たっては、
- 研究目的
- 学術分野の特性
- 研究成果の独創性
- 社会的・経済的インパクト
- 専門家によるピアレビュー
などを総合的に考慮することが求められています。
この考え方は、DORA(San Francisco Declaration on Research Assessment)やLeiden Manifestoなど、近年の国際的な責任ある研究評価(Responsible Research Assessment)の理念とも整合しています。
研究力指標を正しく理解するために
研究力を示す指標は年々多様化しています。
しかし、重要なのは「どの指標が優れているか」ではなく、「それぞれの指標が何を測定し、どのような限界を持つか」を理解することです。
例えば、論文数が増加しても研究成果の質が向上したとは限りません。一方、高被引用論文数が増加しても、教育活動や地域貢献、人材育成といった大学本来の役割を十分に評価できるわけではありません。
研究力とは、単一の数値では表現できない複合的な概念です。
研究評価では、多面的な指標を適切に組み合わせ、それぞれの意味と限界を踏まえて解釈することが不可欠です。その視点を持つことで、日本の研究力に関する政策や報道、大学の自己点検・評価、公表される研究指標を、より客観的かつ深く読み解くことができるでしょう。
参考資料
Hicks D., Wouters P., Waltman L., de Rijcke S., Rafols I. (2015). The Leiden Manifesto for research metrics. Nature, 520, 429-431.
科学技術・学術政策研究所(NISTEP)「科学技術指標」
https://www.nistep.go.jp/
文部科学省「研究及び開発に関する評価指針」
https://www.mext.go.jp/a_menu/kagaku/hyouka/main11_a4.htm
OECD. Measuring Research and Development.



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