統計学というと、平均値やグラフ、難しい数式を思い浮かべる人が多いかもしれません。しかし、どれほど高度な分析を行っても、もともとのデータが適切でなければ、正しい結論を導くことはできません。
統計学には、
“Garbage In, Garbage Out”(質の悪いデータからは質の悪い結果しか得られない)
という有名な考え方があります。
例えば、「日本人の平均身長」を調べたいにもかかわらず、バスケットボール選手だけを調査したらどうなるでしょうか。当然、実際より高い平均身長になってしまいます。
これは分析方法の問題ではなく、「データの集め方」の問題です。
つまり、統計学では分析を始める前に、「どのようにデータを集めるか」が極めて重要になります。
本記事では、統計学におけるデータ収集の基本的な考え方と、代表的な調査方法について解説します。
なぜデータの集め方が重要なのか
統計学の目的は、「データから正しい結論を導くこと」です。
しかし、データの集め方に問題があると、分析結果も誤ったものになります。
例えば、ある高校で、
「1日の勉強時間」
を調べるアンケートを実施したとします。
放課後に図書館で勉強している生徒だけを対象に調査すると、平均勉強時間は実際より長くなるでしょう。
逆に、部活動が終わったばかりの生徒だけを対象に調査すると、勉強時間は短く見積もられるかもしれません。
どちらも、一部の特徴を持った人だけを調査しているため、学校全体を正しく表しているとは言えません。
つまり、分析以前に調査方法が結果を左右するのです。
データの集め方には2種類ある
データの収集方法は大きく分けると、
観察研究
と
実験研究
の2つがあります。
観察研究
観察研究とは、人為的な介入を行わず、自然な状態を観察する方法です。
例えば、
- アンケート調査
- 国勢調査
- 健康診断データ
- 売上データ
- 気象データ
などが該当します。
現実社会で得られる多くのデータは観察研究によるものです。
一方で、「原因」を明確に示すことは難しいという特徴があります。
実験研究
実験研究では、研究者が条件を設定してデータを集めます。
例えば、
新しい学習方法を試す場合、
- A組は従来の授業
- B組は新しい授業
というように条件を変えて比較します。
医学では、
- 薬を飲むグループ
- 偽薬(プラセボ)を飲むグループ
を比較する臨床試験が代表例です。
実験研究では条件を統一しやすいため、原因と結果の関係を検討しやすくなります。
アンケート調査の注意点
アンケートは最も身近なデータ収集方法です。
しかし、質問の仕方によって結果は大きく変わります。
例えば、
「スマートフォンの使いすぎは学力低下につながると思いますか。」
という質問では、
「使いすぎ」という表現が回答者へ影響を与える可能性があります。
一方、
「1日のスマートフォン利用時間はどれくらいですか。」
という質問であれば、回答者の考えを誘導しません。
このように、質問文は中立的であることが重要です。
無作為抽出(ランダムサンプリング)
母集団を代表する標本を得るためには、
無作為抽出(Random Sampling)
が重要になります。
無作為抽出とは、
全員が同じ確率で選ばれるように標本を抽出する方法
です。
例えば、高校1年生400人の中から40人を調査したい場合、
出席番号やくじ、乱数などを利用して選びます。
誰が選ばれるか事前に分からないことが重要です。
無作為抽出によって、標本抽出バイアスをできるだけ小さくできます。
層別抽出という方法
母集団の特徴をより正確に反映させたい場合には、
層別抽出(Stratified Sampling)
が用いられます。
例えば、
高校全体では
- 男子50%
- 女子50%
だったとします。
無作為抽出では、
偶然
男子70%
女子30%
になる可能性があります。
そこで、
男子から50人
女子から50人
というように、あらかじめ集団を分けて抽出します。
これにより母集団の構成を反映しやすくなります。
国の統計調査でもよく使われている方法です。
データ収集では倫理も重要
現代では、データを集める際に倫理への配慮も欠かせません。
例えば、
- 個人情報を適切に管理する
- 本人の同意を得る
- 利用目的を明確にする
- 個人が特定されないようにする
などが求められます。
医療研究では倫理審査委員会の承認が必要になることもあります。
また、大学で卒業研究を行う場合にも、研究倫理について学ぶことが一般的になっています。
統計学は単に数字を扱う学問ではなく、人を対象とする学問でもあるのです。
良いデータとは何か
良いデータには、いくつかの共通点があります。
第一に、調査目的が明確であることです。
第二に、対象者が適切に選ばれていることです。
第三に、測定方法が統一されていることです。
第四に、欠測や入力ミスが少ないことです。
そして最後に、調査結果を再現できることです。
統計解析の技術だけでは、良い研究はできません。
良い研究は、良いデータ収集から始まります。
例題①(基礎)
ある中学校で、全校生徒の運動時間を調べるために、運動部の生徒だけへアンケートを行いました。
この調査方法にはどのような問題がありますか。
A. 全数調査だから問題ない。
B. 無作為抽出になっていない。
C. 回答人数が多すぎる。
D. 平均値を計算できない。
解答
正解はBです。
運動部の生徒だけでは学校全体を代表しているとは言えません。標本抽出に偏りがあり、母集団を正しく反映できない可能性があります。
例題②(応用)
ある大学では、新しい学習支援システムの効果を調べるため、希望者だけにシステムを利用してもらい、その後の成績を調査しました。その結果、利用者の平均点は利用しなかった学生よりも高くなりました。
この結果から、「学習支援システムによって成績が向上した」と結論づけることは適切でしょうか。
解答
この結果だけでは適切とは言えません。
希望者だけが利用しているため、もともと学習意欲が高い学生が多く含まれていた可能性があります。つまり、利用者と非利用者の違いが、システムの効果ではなく、学習意欲や学習習慣の違いによるものかもしれません。
このような影響を小さくするには、利用者を無作為に割り付けるランダム化比較試験(Randomized Controlled Trial: RCT)のような研究デザインが望ましいと考えられます。
まとめ
データの集め方は、統計学の出発点です。どれほど高度な統計解析を用いても、偏ったデータや信頼性の低いデータから正しい結論を導くことはできません。
データを集める際には、調査目的を明確にし、対象者を適切に選び、できるだけ偏りを減らす工夫が必要です。無作為抽出や層別抽出などの方法は、母集団を正しく反映した標本を得るために用いられます。また、研究倫理や個人情報保護への配慮も、現代のデータ収集では欠かせない要素です。
統計学は分析だけの学問ではありません。「どのようなデータを集めるか」が、分析結果の信頼性を決定するということを覚えておきましょう。
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